2025年4月、ドコモの衛星電話サービス「ワイドスター」が大幅に値上げされました。船舶業界を始め、ワイドスターを利用していた業種では多くの困惑の声が上がっています。
ワイドスターの大幅値上げを受け、「今後も使い続けるとコストが心配」「ワイドスターの代替手段はあるの?」という疑問・不安をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
今回は、ワイドスターがどのくらい値上げされたのか、値上げの背景、代替手段として注目されている方法について解説します。コストを抑えながら確実な通信手段を確保したい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
そもそも衛星通信サービスとは?
衛星通信サービスとは、地球の周りを周回する人工衛星を利用して、地上や船舶、航空機などの間で通話やデータ通信を行うサービスです。私たちが普段利用している携帯電話やインターネットは、地上に設置された基地局や有線ネットワークに依存しています。そのため、山間部や離島、海上など、通信インフラが整備されていない場所では利用が難しくなるものです。衛星通信サービスは、そのような場所でも、人工衛星を利用し、通信を可能にします。
衛星通信サービスでは、専用の端末やアンテナを使い、人工衛星を経由して音声通話やデータ通信ができます。
衛星通信サービスはその仕組みや特徴から、災害時に地上の通信インフラが被害を受けた場合でも、利用できることが多くあります。そのため、非常時の連絡手段や企業の事業継続計画(BCP)にも役立つサービスです。
衛星通信サービスには音声通話に特化した「衛星電話」や、インターネット接続が可能な「衛星インターネット」など複数の種類があります。最近では、高速なデータ通信ができるサービスも登場しており、中でもスペースX社のStarlinkが注目を集めています。
日本国内でも、NTTドコモのワイドスターシリーズや、KDDI、ソフトバンクが提供するイリジウムなど、いくつかの衛星通信サービスが利用可能です。サービスごとに用途や内容に違いがあるため、利用シーンに合わせて選ぶ必要があります。
ドコモの衛星電話「ワイドスターⅡ」「ワイドスターⅢ」とは?
ワイドスターは、NTTドコモが提供する衛星電話サービスです。2010年4月からは「ワイドスターⅡ」、そして2023年10月からは新モデルの「ワイドスターⅢ」が登場しています。
ワイドスターⅡは、持ち運び可能な可搬型端末や車載型端末など、用途に合わせた端末が用意されています。基本サービスは音声通話のほか、データ通信やFAX送受信(オプションのFAXゲートウェイサービス利用時)にも対応しています。データ通信は、パケット通信のベストエフォート型で、上り最大144kbps、下り最大384kbpsとなっています。また、64kデータ通信(速度保証型)の場合は、上り・下りともに最大64kbpsで利用可能です。これらの特徴により、災害現場や山間部、離島、工事現場など、一般の通信インフラが整っていない場所でも安定した通信手段として活用されてきました。
後継となるワイドスターⅢは、従来モデルからさらに端末の小型・軽量化、バッテリー容量の向上が図られています。可搬型端末では、上り最大250kbps、下り最大1.5Mbpsの高速データ通信に対応し、設置型端末の場合は上り最大1Mbps、下り最大1.5Mbpsとなっています。音声通話やFAXゲートウェイサービスを利用したFAX送受信も引き続き利用できます。端末サイズや重量、バッテリー性能も強化されており、より幅広いシーンで快適に利用できるようになっています。
なお、ワイドスターⅡは2028年3月31日をもってサービス提供が終了予定であり、新規申込受付も2025年3月31日で締め切られます。今後はワイドスターⅢへの移行が推奨されています。
「ワイドスターⅡ」「ワイドスターⅢ」が値上げに!
2025年4月以降、NTTドコモの衛星電話サービス「ワイドスターⅡ」「ワイドスターⅢ」の通話料金が大幅に値上げされました。今回の料金改定は、さまざまな業界に大きな影響を与えており、これまで利用してきた企業や自治体、個人ユーザーの多くがコスト増加への対応を迫られています。
通話料金の改定内容
2025年4月1日より、ワイドスターⅡ・Ⅲの通話料金は以下のように大幅に引き上げられています
| 通話区分 | 改定前 | 改定後 |
| 携帯電話発→衛星電話着の通話料 | ワイドスターII陸上:22円/30秒 ワイドスターII船舶:55円/30秒 ワイドスターⅢ:55円/30秒 | ワイドスターII陸上:177.1円/30秒 ワイドスターII船舶:177.1円/30秒 ワイドスターⅢ:177.1円/30秒 |
| 衛星発の通話料(国内向け) | タイプM:99円/30秒 タイプL:49.5円/30秒 タイプリミット:49.5円/30秒 | タイプM:297円/30秒 タイプL:148.5円/30秒 タイプリミット:148.5円/30秒 |
このように、ワイドスターの値上げ幅はおおむね3倍~8倍と非常に大きいことが分かります。船舶業界をはじめとした利用頻度の高い分野、さらに業務用途で複数回線を運用している企業・自治体にとっては、コスト負担の大幅な増大となります。多くの業種において、代替を検討することが求められることが推測されます。
料金改定となった理由は?
今回、なぜワイドスターはここまで大幅の値上げを行ったのでしょうか。NTTドコモが公表した主な理由は、「ネットワーク設備の維持管理コストの継続的な上昇」です。
衛星電話サービスは、通信衛星や地上局などの専用設備が不可欠です。これらの老朽化やメンテナンス費用の増加、加えて利用者数の減少といった事業環境の変化の影響により、提供開始当初と比べてコスト構造が大きく変化してきています。
ドコモはこれまで、コスト構造の変化に対応するべく、さまざまな対応に努めてきたとされています。しかし、自社努力だけでは限界に達したため、サービスの品質維持と安定運用を優先し、やむなく大幅な料金改定に踏み切ったとのことです。
こうした背景から、今後衛星電話サービスを利用する際は、コスト管理や他の通信手段との併用も含めた検討の必要性が求められます。
ワイドスターの代替手段として注目!衛星インターネット+IP電話とは
ワイドスターⅡやワイドスターⅢの通話料金が大幅に値上げされたことで、コストを抑えて同じような通信環境を実現したいというニーズが高まっています。その中で注目されているのが、衛星インターネット回線とIP電話サービスの組み合わせです。
衛星インターネットというと難しく感じるかもしれませんが、基本的には通常のインターネット回線と同じように使えます。違いは「通信経路に人工衛星を使っている」だけにすぎません。衛星インターネット回線を通じて、いつものようにアプリやサービスを利用できます。つまり、通信経路が衛星になるだけで、普段と同じようにIP電話サービスも利用でき、どこにいても通話できるわけです。
「衛星インターネット+IP電話」を活用すれば、スマートフォンやパソコンなど普段使っている端末から、050番号や市外局番付きの番号で固定電話や携帯電話とも通話でき、複数端末で同時利用も可能です。ワイドスターのような専用端末を使う必要がなく、利便性や柔軟性、コスト面でもメリットがあります。
おすすめの組み合わせは「スターリンク(Starlink) × 03plus」
ワイドスターⅡやⅢの値上げをきっかけに、代替手段として注目されているのが「スターリンク(Starlink)」と「03plus」を組み合わせた通信環境です。この組み合わせなら、山間部や離島、海上など通信インフラが整っていない場所でも、普段使いのスマートフォンでIP電話を利用して、通常の通話や業務連絡を行うことができます。
それぞれの料金は以下の通りです。
スターリンク(Starlink)ビジネスプラン料金
| プラン | 月額 | 通信量 | 備考 |
| ローカル優先50GB | 8,800円 | 50GB | 日本国内・陸上利用向け |
| ローカル優先500GB | 22,400円 | 500GB | 日本国内・陸上利用向け |
| ローカル優先1TB | 39,400円 | 1TB | 日本国内・陸上利用向け |
| グローバル優先50GB | 40,000円 | 50GB | 海外・海上・多用途向け |
※金額はすべて税込
03plusの料金
| 料金 | 備考 | |
| 初期費用 | 5,000円 | 契約時のみ |
| 月額基本料(1ID) | 1,280円 | |
| 通話料(アプリ発信) | 20円/30秒 | 10分かけ放題オプションあり |
| 10分かけ放題(オプション) | 1,000円/月 | 1通話10分以内なら通話料無料 |
※金額はすべて税別
月額合計のイメージ
ローカル優先50GBプラン+03plus1番号・10分かけ放題付の場合
・スターリンク(ローカル優先50GB):8,800円(税込)/月
・03plus(1番号):1,408円(税込)/月
・10分かけ放題オプション:1,100円(税込)/月
(10分までの通話が毎日無料、超過分のみ追加課金)
合計:11,308円(税込)/月+通話超過分のみ追加課金
なお、03plusを利用する際のスターリンクのプランは「ローカル優先50GB」がおすすめです。03plusが使用するデータ通信量は、
・1分間の通話:250KB(4分間の通話で1MB消費)
・バックグランドで24時間待機状態:150KB
となっており、50GBプランであっても不足することはありません。
ただし、03plusによる通話以外の用途にも使用する場合は、各用途のデータ通信量を考慮したうえでプランを決定することをおすすめします。
ワイドスターとの比較
さきほどの「スターリンク(Starlink) × 03plus」の料金を、通話料が値上げとなったワイドスターと比べてみましょう。
なお、ワイドスターの基本使用料と改定後の通話料について、改めて表にまとめました。
| 基本使用料 | 30秒あたりの通話料(改定後) | |
| タイプL | 16,500円 | 148.5円 |
| タイプM | 5,390円 | 297円 |
| タイプリミット | 17,050円 | 148.5円 |
※金額はすべて税込
これらをもとに、1日30分通話をする場合のワイドスターの料金を計算すると以下のようになります。
1日30分通話をする場合
●ワイドスター タイプMの場合
・ワイドスター タイプM 基本使用料:5,390円(税込)
・衛星発の通話料(タイプM:297円/30秒):297円×60=17,820円(税込)/日
1か月(30日)→ 17,820円×30=約534,600円(税込)/月
合計:539,990円/月
●ワイドスター タイプLの場合
・ワイドスター タイプL 基本使用料:16,500円(税込)
・衛星発の通話料(タイプM:148.5円(税込)/30秒):148.5円×60=8,910円(税込)/日
1か月(30日)→ 8,910円×30=約267,300円(税込)/月
合計:283,800円/月
ワイドスターについては、プランにより、2,200円、または3,300円の無料通話分がありますが、無料通話分が適用されたとしても、いずれの場合でも数十万円の費用が掛かることがわかります。
一方、スターリンク×03plusの組み合わせであれば、前述のとおり「11,080円/月+通話超過分のみ追加課金」となります。ただしこれは、1日30分の通話を、10分かけ放題オプションの範囲内に収まるよう、10分×3回に分けた場合です。
このように、スターリンク×03plusの組み合わせは、値上げしたワイドスターと比べると、コストを大幅に下げられます。03plusの「10分かけ放題」オプションを活用すれば、1通話あたり10分以内の通話が何度でも無料になり、通話頻度が高い場合でもコスト管理がしやすくなります。また、普段使っているスマートフォンでそのまま利用できる手軽さや、複数人・複数端末で同時に使える柔軟性も大きな魅力です。
スターリンク(Starlink) × 03plusを使う際の注意点
スターリンクと03plusの組み合わせは、コストや利便性で多くのメリットがあります。しかし、実際に利用する際は従来のワイドスターとは異なる注意点も存在します。特に、緊急通報への対応や、通信品質・安定性の面でこれまでの衛星電話とは異なる特徴があるため、導入前にそれぞれのポイントをしっかり理解しておくことが大切です。
緊急通報(110/119など)ができない
スターリンクと03plusの組み合わせを利用する場合、110番や119番などの緊急通報をかけることができません。これは、IP電話がインターネット回線を利用しているため、発信者の正確な位置情報が警察や消防に自動で伝わらず、現場への迅速な対応が難しくなる可能性があるためです。
こうしたことから、山間部や離島、災害現場など他の通信手段が限られる状況では、万が一の際の連絡手段としてIP電話だけに頼らず、必要に応じて衛星電話や携帯電話、無線機など緊急通報が可能な手段を別途用意しておくことが大切です。
通話品質や安定性はワイドスターと異なる場合も
スターリンク×03plusの場合、通話品質や安定性がワイドスターと異なる可能性があります。スターリンクもワイドスターもどちらも衛星を使った通信サービスです。そのため、「基本的にどちらでも変わらないのでは?」と思うかもしれません。しかし、通話をする場合、両者の仕組みの違いから、通話品質や安定性に影響することがあるのです。
ワイドスターは、専用の衛星電話端末が直接衛星とやり取りし、通話専用の回線につながる仕組みです。そのため、通話が最優先で安定するように設計されています。
一方、スターリンク×03plusでは、スターリンク端末が受信したインターネット回線を、スマートフォンとWi-Fiなどでつなぎ、そのうえでIP電話アプリを使って通話します。この場合、Wi-Fiの電波状況やスマホの動作、インターネット回線の混雑など、衛星区間以外の要素が通話品質に影響を与えやすくなります。
例えば、Wi-Fiの電波が弱かったり、スマホでアプリが不安定な場合には、通話が遅れたり音声が途切れることもあります。
このように、スターリンク×03plusでは、衛星通信自体はワイドスターと同等と考えられます。しかし、地上側のネットワークや端末の環境によって品質や安定性が変わる場合がある点に注意が必要です。より安定した運用を目指すには、Wi-Fi環境やスマホの状態にも気を配りましょう。
まとめ
今回は、ワイドスターの値上げと代替手段について解説しました。ワイドスターはドコモが提供する衛星電話サービスで、山間部や離島、災害現場など通信インフラが整っていない場所でも確実な連絡手段として長年利用されてきました。しかし、2025年4月からは大幅な通話料の値上げが実施され、常用するには非常に高額なサービスとなっています。
そのような背景から、最近は「衛星インターネット」と「IP電話サービス」を組み合わせた代替手段が注目を集めています。中でも、スターリンクと03plusの組み合わせは、普段使いのスマホでそのまま通話やインターネットが利用できるうえ、ワイドスターに比べて通話コストを大幅に抑えることができます。さらに、03plusの10分かけ放題オプションを活用することで、通話頻度が高い場合でもコスト管理がしやすくなります。
ワイドスターの利用を見直したい、もしくは新しい通信手段をお探しでしたら、スターリンクと03plusの組み合わせをぜひ検討してみてください。

